新入部員を迎えて、新しいメンバーになじんできた頃。
吹奏楽などではコンクールの自由曲も決まり、本格的な活動がはじまる時期ですね。
5月はこの時期に多い質問にお答えいたします。
1. 吹奏楽部ですが、ペダルハープを買うだけの予算がありません。
編成もそれほど大きくはないので、小型または中型のハープで代用できますか?
吹奏楽曲の中にも、ノン・ペダルハープ(アイリッシュハープ)を使用するよう書かれている曲があります。
なので、全く無理というわけではないのですが、吹奏楽でもオーケストラでも、単に「ハープ」( Harp[英語] Harfe [ドイツ語] Harpe [フランス語] )と書かれているのでしたら、それはペダルハープを想定されていると考えなければなりません。
ペダルハープとノンペダルハープでは、音量も違いますが、何よりも半音操作のしくみが違います。
ペダルハープには7本のペダルがあり、それぞれド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの7つの音に対応しています。
7本のペダルは、それぞれ階段状のスロットの中を3段階に動き、すべてのオクターブで対応する弦の音を一斉に「♭(フラット)」「♮(ナチュラル)」「♯(シャープ)」に切り替えることができます。
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たとえば、「C(ド)」のペダルを#(シャープ)に入れれば、その動きを柱の中にある「ロッド」が、腕木の中に組み込まれた「リンク」に伝え、「リンク」がプレート上の「ディスク」を動かし、Cのディスクが回転して弦を押さえ、1オクターブから7オクターブまで、7本のCの弦の音がすべてC#(ドのシャープ、Cis)になります。
このことですべての調性の音楽の演奏ができ、なおかつ一瞬で臨時記号に対応したり、転調することが可能なのです。
一方でレバーハープは、レバーをすべて下げた状態でE(ミ)、A(ラ)、H(B)(シ)を♭(フラット)に、その他のC(ド)、D(レ)、F(ファ)、G(ソ)の弦を♮(ナチュラル)にチューニングします。
そしてその後に、それぞれのレバーを演奏する曲の調性に併せて上または下にセットします。
例えばハ長調の曲を演奏するときにはE(ミ)、A(ラ)、H(B)(シ)のレバーを上げ、♮(ナチュラル)にセットします。
残りのC(ド)、D(レ)、F(ファ)、G(ソ)のレバーは下げたままで♮(ナチュラル)の音になります。
(チューニングでハ長調に合わせるのではありません)
それぞれのレバーは1本の弦の音しか換えることができません。
曲中にちょっとした半音変換をすることはできますが、レバー操作をしている間は左手は使えません。
転調の際にはすべてのオクターブで、該当するフックを上げ下げしなければなりません。
♯(シャープ)4つ、♭(フラット)3つまでしか対応できないので、それ以上の調性の曲は同名異調で読み替えるしかありません。
実際の演奏で半音操作にどのくらいの差があるのか、例を見てみましょう。
ト長調(♯1つ)→ニ長調(♯2つ)の半音変換
《ペダル操作》
C♮→#
《レバー操作》
C♮→# × 5〜6個
5度上の調に転調する例として上げてみました。ペダルハープならCのペダルをナチュラルの位置(スロットの真ん中)からシャープの位置(スロットの一番下)へ一段踏み込むだけですが、レバーハープでは1オクターブから6オクターブまで、5つ、または6つのCのレバーを上げなければなりません。不可能ではないですが、カタカタカタ・・・・とかなり忙しいですね。
では半音だけ音が上がる調性に転調するパターンはどうでしょう?
ニ長調(#2つ)→変ホ長調(♭3つ)の半音変換
《ペダル操作》
F♯→♮
C♯→♮
H(B)♮→♭
E♮→♭
A♮→♭
《レバー操作》
F♯→♮ × 5〜6個
C♯→♮ × 5〜6個
H(B)♮→♭ × 5〜6個
E♮→♭ × 5〜6個
A♮→♭ × 5〜6個
イ長調(♯3つ)→変ロ長調
《ペダル操作》
F♯→♮
C♯→♮
G♯→♮
H(B)♮→♭
E♮→♭
《レバー操作》
F♯→♮ × 5〜6個
C♯→♮ × 5〜6個
G♯→♮ × 5〜6個
H(B)♮→♭ × 5〜6個
E♮→♭ × 5〜6個
ペダルハープでは5つのペダルを操作することになりますが、左右の足を同時に使えば3回の動きで操作が完了します。
レバーハープでは、全オクターブのF、C、H(B)、E、Aのレバーを操作しなければならないので、34弦の楽器なら26個(36弦の楽器では27個)のレバー操作が必要になります。これだと左手は数小節間お休みになってしまいますね。
「レバーハープの横に半音装置を上げ下げする係を2人つけています」ととある学校の先生からお話を聞いたことがあるのですが、果たして上手くいくものなのでしょうか。
ここではレバーハープでも演奏可能な調のみを上げましたが、転調先が♭4つ以上、♯5つ以上でしたら、レバーハープではもはや演奏不可能です。
2. ペダルは7本もいらないので、もうちょっと安くなりませんか?
ハープをよくご存じの方には笑い話のように思えるでしょうが、ときどきそんな相談をいただきます。
1. のペダルハープの半音操作の特性をご理解いただければ、どうして7本のペダルが必要なのか、納得していただけますよね。
3. ピアノで代用したいのですが
ハープがない場合、ピアノなど鍵盤楽器で・・・・と考えることも多いかと思います。
確かにハープの楽譜はト音記号とヘ音記号のある大譜表で、ピアノとよく似ています。
音域もほぼ同じです。
けれど「ハープはピアノではない」し「ピアノはハープではない」のです。(当たり前のことですが)
ペダルハープの奏でるグリッサンド、これをピアノで再現するのはとても大変です。
楽譜を見るととてもたくさんの音が並んでいて、これを弾くのはとても大変・・・と思いきや、ハープでは簡単に演奏できる音列であったりします。
例えば、下の楽譜はとても臨時記号がたくさん付いていて、とても複雑な音列に見えます。

ところがこれはペダルハープなら、7本のペダルを
C-♯
D-♭(=C-♯)
E-♮
F-♭(=E)
G-♮
A-♮
H-♭
にセットしてしまえば、ヘ音記号のAから高音に向かって順に弦に触れていくだけで上の楽譜に書かれたとおりの音が出るのです。
ハープとピアノ、それぞれ得意分野があります。
ハープのことをよくわかっている作曲家(または編曲者)が書いた楽譜であれば、指示されているとおりハープで演奏するのが最も効果的なはずです。
4. ペダルハープの楽譜に謎の記号が出てきます。
ゲジゲジのようなのとか、コーダマークのようなものとか。
あれは何でしょう?
このあたりになるともう楽器屋ではなく、ハープの指導をされている方にお尋ねすべき領分なのですが、あまりにもたくさんの質問をいただくので、ごくごく基本的なことだけ記載いたします。
「ゲジゲジのようなもの」

ペダルの配置図です。
横の長いラインが♮(ナチュラル、3つのスロットの真ん中)の位置を示しています。
真ん中より少し左寄りの縦のちょっと長いラインをはさんで
D C H(B) | E F G A
のそれぞれのペダルを、上・中・下どこのスロットに入れるかが指示されています。
横の長いライン上に印があれば♮(ナチュラル、真ん中のスロット)、ラインより上に印があれば♭(フラット、一番上のスロット)、ラインラインより下に印があれば♯(シャープ、一番下のスロット)。
ですので、上のペダル配置図ではF(ファ)とC(ド)を♯(シャープ、下段)に入れ、他のペダルは♮(ナチュラル、中段)にセットする、という指示です。
楽譜では、曲の最初や、転調時、臨時記号出てくるところで記載されていることが多いようです。
もちろん、全く記載されていない楽譜もあります。
これ以外に、「A♭」や「C♯ー♮」のような記号も、ペダル操作を指示する表記です。
「コーダマークのようなもの」
や
「エトフェ」(フランス語)/「マフリング」(英語)と呼ばれる、手のひらや指で弦を押さえて弦の振動を止める奏法の指示記号です。
これはペダルハープだけでなく、レバーハープの楽譜にも出てくることがあります。
休符で響きが残らないように指示されている場合や、ペダル操作をするときに弦が振動する音が出ないように指示されている場合などがあります。
ハープの楽譜にはその他にも珍しい記号がたくさん書かれているかと思いますが、その多くは奏法と関係することなので、知識だけで解決することはできません。
ハープのレッスンを受け、テクニックを修得することが一番の方法です。
5. ハープ担当ですが、初心者です。
指が痛くならない方法はありますか?
手袋をして演奏するのはありでしょうか?
ハープは指の腹で弦をはじいて音を出します。
手袋をつけた手では滑ってしまうでしょうし、音も響きが止まってしまいます。
とは言え、初心者でいきなり長時間練習すると、「指が痛い!」という方は多いのではないでしょうか。
痛くなってしまっては練習がつらいし、効果が上がりません。
ただ漫然と長時間練習するのではなく、「弾く」以外の ”練習” もしながら、徐々に指を馴らしていくのが理想です。
例えば、
・ペダリングだけの練習をしてみる
・「エアハープ」をやってみる
・楽譜を見ながらイメージトレーニング
・上手な演奏をたくさん見たり聴いたりする
・・・などなど。
本番前、どうしても長時間弾かなければならないときには、グリッサンドの部分は指の代わりにウクレレなどのピックを使う(堅めのフェルトやシリコン製のものが弦を傷つけず、音も良いようです)など、皆さん、いろいろな工夫をしていらっしゃるそうです。
そして、練習が終わったら手を洗って清潔にし、ハンドクリームなどで保湿して「きれいな音の出る指」を保つこともとても大切です。